「リストラ候補一掃」のため、S社長が取った行動

事業計画コンペと銘打った「寝ずの社員研修」では、各班が睡眠を削り必死に計画を作成する。その間、各支店長はS社長の元に集められ、リストラ候補者を挙げるよう指示される。

「候補を挙げる支店長もいれば、部下をかばい無言の支店長もいます。無言だと、支店長自身がS社長に目を付けられることもあります。そしてS社長自身も腹心のKがまとめたデータを眺め候補を探します。“うーん、こいつかなー”といった具合に」

長谷川氏によると、腹心のKは業界外から登用された女性幹部で、営業データの管理担当だが、データの各数値が実際に何を意味するのか十分理解してなかったそうだ。

ここでリストラ候補に挙がると、本社の「ある指導」が始まる。「リストラ候補者は営業上、ムダな動きが多い」という口実作りのため、ケータイGPSで行動を監視されるのだ。

「しかし、S社長ら幹部は、MRとしてどんな行動が求められるか理解していませんでした。なぜなら、連日パチンコ屋に入り浸りの人間がエリア部長に昇進しましたから」

さらにリストラ候補者は、実績が上がらない地区を転々とさせられる。

 「その後、“3カ月にも及ぶ本部の指導にもかかわらず実績が改善しなかった”という理由で指名解雇です。改善できなかったという根拠も、かなり恣意的でした」


自己の実績を「偽って」昇格する者も


本来、営業というのは、どの顧客にどうアプローチすべきかという試行錯誤の繰り返しだ。ところが、長谷川氏によると、本部の指示に忠実な社員ほど、自分の頭で考えず業績も落ちていったという。

「ある不振を私が見かねて指導し、かなり業績が改善したことあるのですが、営業部長から“余計なことをするんじゃねえ!”と逆に罵倒されました」

長谷川氏は、B製薬にMRとして入社以来、順調に結果を出してきた。

「入社2年目から3年目の1年間は、前年比140%の実績でした。しかし、査定による昇給率は1.8%。全社員の平均昇給率が2.5%ですから、これは納得がいきません」

一方、社内には自己の実績を偽り昇格した者もいる。

「対前年比70%の実績の社員がいたのですが、彼は年間実績の合計値の行を削除し、比較的実績の良い査定直前3か月の部分を申告し、支店長昇格の推薦を得ました」


 長谷川氏もついにリストラの標的に

そして、長谷川氏もついにリストラの標的となった。理由は「寝ずの社員研修」だ。

「1つの模造紙にあるテーマに沿ったキーワードを皆で書き込むという演習の際、めちゃくちゃな書き込みをする者がいたので、模造紙を新しいものに替えたんです」

そして、長谷川氏が古い模造紙を丸めて持っていたところ、S社長が寄って来てこう言い放った。

「お前、野球の素振りしてたな」

それから、長谷川氏は支店長昇格の内定を取り消され、実績の上がりにくい任地を短期間で転々とさせられることになった。

「実績が上がらないとリストラの理由づけになりますし、短期間でいろんな任地を転々させられると転職の際にかなり不利なんです」

さらに、ある管理職から馬乗りになって殴られるというパワハラにも遭う。

「殴りかかってきたのは60代の支店長。彼はよく忘れがちで、あるイベントで招いたドクターの旅券を手配し忘れたため、私が代わりに対処し事なきを得たことがあったのです」

ところが、本社は長谷川氏に「不正な手段で旅券を手配したのではないか」と疑いをかけた。そこで、長谷川さんが本社に経緯を説明したところ、事件は起こった。

「病院の駐車場でした。私の営業車にいきなり乗り込み馬乗りになって殴りかかって来ました。“お前が本社に説明したら俺はどうなるんだ、俺を陥れる気か”と言って。よほど自分の今後が心配だったのか、彼は泣いてました」

この支店長は、現在もある地方の支店長を務めているという。

いっぽう、長谷川氏だが、現在、会社から3カ月の「有給休職」を命じられている。

実は、B製薬には休職制度がなく、一度休職すれば事実上、会社から消滅したことになる。このため、長谷川氏が職場に復帰できる可能性は極めて低い。

(完)

[恵比須半蔵(えびすはんぞう)/ノンフィクションライター]